2014年5月16日金曜日

燃える!お兄さん男

ドリーム

○ ○ ○

 電車に乗っていた。窓の外は少し田舎の風景。山の間に住宅地がある。よく晴れている朝だった。車内は通勤や通学と思われる乗客である程度混んでいた。
 近くに立っていたサラリーマン風の男がちらちらとこちらを見てくる。30代半ばくらいで、少し太っていて、眼鏡をかけている。スーツだがネクタイはしていない。黒いカバンを肩にかけている。男は少し近寄ってきた。
「.....ですか?」
 とうとう男が話しかけてきた。私はイヤホンをしていたのでよく聞こえなかった。イヤホンを外して、なんですか、と聞いた。男はもう一度訪ねてきた。
「『燃える!お兄さん』好きですか?」
 驚いた。なぜわかったのか。電車に乗って音楽を聴きながらただ外を眺めているさして特徴のない乗客であったはずの私の、どこから、それを感じ取ったのか?
「はい、好きですよ。単行本はなかなか揃わなくて、たしか7冊くらいもってます。佐藤正ですよね」
 私がそう答えると、少し満足そうに男は頷いた。そして男は鞄から書類が挟まったクリアファイルを取り出した。なにかの説明資料のようだが、漫画も描いてある。資料を私に見せながら男は説明を始める。
「僕、こういう仕事してるんです。漫画を綺麗に印刷する仕事。こういう感じで、一般の業者よりも絵の線の感じとか、綺麗に出るんですよ。この漫画家さん知ってます?」
「うーん、ごめんなさい。初めて見ました」
「ちょっと頼みたいことがあるんですが、いまから時間いいですか?」
「いいですよ」
 明らかに怪しい人物だがなにか純粋な真剣さを感じ、悪人ではないと思えたので、ついて行くことにした。
 下車してついていった場所は、ビルの2階にある催事場のような場所だった。何か準備作業中のようで、物を運んでいる人や、長椅子を組み立てている人がいた。
「ここです」
 壁に近いある一画に来たところで男は説明を始める。
「明日から2日間、ここイベントがあって、僕らのサークルも参加するんですが、ちょっと人手が足りていなくて。よかったら手伝ってもらえませんか?」
「いいですよ。3日後に自分の展示があるので、最後の片付けは参加できませんが。展示までは時間ありますし、やります」
机にはソフビ人形がいくつか置かれていた。
「基本的にはブース番ですか?」
私が尋ねると、少し離れたところにいた別の男ー黒いジャケットを着た小柄の男が答えた。
「やり方は私が教えるから大丈夫」
ジャケット男は視線を遠くに向けたまま、肩越しに答えた。
「あ、よろしくお願いします」
いったいどんなサークルなのか、まだ知る由もなかった。

TYM344

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